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 山辺道文化館(旧中野病院)の建築について

山辺道文化館正面

構造形式は木造洋風2階建て、地下室を1室有する。屋根構造は寄棟造、桟瓦葺きである。1階及び2階の東端部と下り棟の端部に鬼瓦を飾る。全体的には寄棟造であるが、2階正面に2階母屋の中程より棟を前方に突出させ、ここだけに装飾的な三角破風を備えている。壁は下見板張りにペンキ塗り仕上げを施す。

基礎は煉瓦造で、226×103×60mmの普通の煉瓦を用いている。見地は約9mmである。床下換気口が正面に9ヶ所、両側面にそれぞれ1ヶ所ずつ開いている。地下室部分は鉄柵を備えた開口部が東面に2ヶ所と北側に1ヶ所開いている。南面は後補の部分が多く、換気口の位置及び数は不明である。古写真(池内俊之氏所蔵)によれば、正面の三角破風の頂部にも他の部分より大きな鬼瓦状のものが見られる。

1階部分の平面の規模は、9170mm(約3尺)、桁行29054mm(約96尺)で、さらに玄関の突出部は4586mm(約15尺)×1218mm(約4尺)である。その建築面積は、柱・壁心々寸法を用いて計算すると、玄関突出部を含めて、272.02平米となる。また2階部分は、梁間は1階と同様で、9170mm(約30尺)、桁行10822mm(約36尺)で、その面積は、99.24平米である。よって、延べ床面積は1階部分と2階部分を合計した371.26平米となる。

山辺道文化館三角破風 高さ関係の寸法は、まず内部を見るとGLから1階床上面までが743mm、1階床上面から天井下面までが3428mmである。また1階天井下面より、2階床上面までのいわゆる天井ふところは687mmである。さらに2階床上面から2階天井下面までは3155mmで、1階天井高の方が2階天井高よりも273mm(約1尺)ほど高い。また外部の高さを見ると、1階部分の軒高は1階軒まで(1階の桁上面)が、4389mm、そこから2階軒まで(2階桁上面)が、3744mmで、よって、いわゆる軒高は8133mm(約27尺)である。この高さは一般の洋風住宅と比べると、病院建築であるから当然ではあるが階高は若干高い。

次に建設年代であるが、伝承によれば、当初久留米市花畑に建設中であった物を大正3年(1914)年に草野町に移築し、当地で完成した物と云われている。よってその伝承を信じるならば、本年(1998年)で、85年を経過したことになる。



配置

旧中野病院は久留米市草野町にある寿本寺の裏手に位置している。その敷地は草野町を東西に縦貫する主要道路から、約30mほど南側に入ったところに位置する。主屋が立つ敷地のかたちは、北が上底南が下底となる台形で、その大きさは上底が約25m、下底が約43m、高さが約42mである。主屋は敷地の南側に寄せて建てられ、北側に広い前庭をとっている。本来ならば建物の向きとしては正面玄関を南側にする方が明るい印象を持つ建築になるはずであるが、この敷地と草野町の主要道路との関係から、病院へのアプローチのことを考慮して正面が北向きになっている。

建築当時の写真(池内俊之氏所蔵)によれば、主屋の背後、つまり南側に東西軸を有する平屋建の病棟が配置されている。その規模は梁間は不明であるが、桁行きは柱の本数を数えると20間半で、写真で判断する限り主屋より幾分大きい。残念ながらこの敷地には後に住宅が建てられ、病棟の基礎などの痕跡を見ることが出来ない。いずれにせよ病院本館と病棟を南北に配置し、当時としては大病院であるに相ふさわしい構成となっている。



平面構成
山辺道文化館一階

1階2階ともに中廊下形の平面である。廊下は1、2階ともそれぞれ東西方向に主要な廊下が延び、その両側に各室が配置されている。1階にはその他に中廊下を基点として南北方向に伸びる3本の廊下が設けられている(1階平面図における中央廊下、西渡り廊下、東渡り廊下)。いずれの廊下も主屋から背後の病棟へ行くための通路であろう。上述の古写真によれば、西側の廊下の位置に病棟へ伸びる渡り廊下の寄棟屋根の一部が見える。

山辺道文化館二階 1階は廊下を挟んで北側に6室、南側に6室が並んでいる。その内野1室は階段下を利用した倉庫である。これらの部屋は1階にあることから診療室、病室、薬局、手術室などとして利用されていたと思われる。西廊下の幅が1695mm(5.6尺)であるのに対し、東廊下の幅は1342mm(4.4尺)と幾分狭くなっている。理由は定かではないが、西側には比較的大きな部屋が配置されていることもあり、患者や病院関係者の通行が多い待合い室や診療室場度が配置されていたのではないだろうか。

2階は天井の装飾が一般の諸室とは異なり、はるかに豪華な衣装が施されていることから、院長室や応接室などが配置されていたと考えられる。階段室は中央にある玄関の奥に配置され、玄関奥から西向きに上がり、踊り場で直角に曲がって2階へ上がるようになっている。



立面構成
山辺道文化館二階

1階の正面は中央に屋根付の玄関を配置し、左右に諸室の窓が並んでいる。上述の古写真に現状の玄関や根と同じ位置に別種の屋根が見えることから現在の物は後補であることが分かる。窓は玄関脇の両側の窓だけが二連窓で、その他はひとつずつの窓が両端に向かって4ヶ所ずつの窓が並んでいる。これらの窓は全て上下窓である。玄関の軒下には柱頭飾りのような装飾が並んでいる。

山辺道文化館階段 2階は中央にベランダを配置し、左右の部屋からベランダに出るための出入口を並べる。窓は二連窓が左右にひとつずつ配置されている。ベランダの上部には三角破風が設けられ、その中には中央の柱状の装飾に向かって左右にスクロール状の木製の装飾を飾り、威厳を示している。以上のように正面は左右の大きさと開口部の要素の配置が左右対称である。

背面の1階は開口部の改造がなされ、中央に現在の渡り廊下もあり、当初の姿ははっきり分からない。上述したように西側には渡り廊下が設けられていたと考えられる。2階の窓の配置は左右で異なっている。2階の南側小室の窓を二連窓としたためと階段室の窓の取り方が原因であろう。しかし、正面背面とも二そのアウトラインは左右対称である。

側面は2面とも中央に中廊下からの出入口を設けている。東側は片開き、西側は両開きの扉である。



評価

最後に旧中野病院について文化財的価値に関する所見を述べてみたい。まず第一に規模が雄大であることである。草野地区はもとより久留米市内においてもこの様な大規模な木造の近代建築が現存せず、さらに、九州地区に於いて洋風建築が比較的残っている長崎にも珍しい規模を有している。次に意匠的に優れている。優雅でかつ堂々とした印象を与える建築物であるという事。堂々とした全体の構成もさることながら、特に細部の意匠に気を使っている。例えば外部では木部の面取りが細部にわたって施されていること及び各所の水平材やベランダ周囲の繰形も、繊細な意匠を用いていることである。内部においては各廊下の出発点にはアーチ状の垂れ壁を設け、そのアーチには繊細な漆喰装飾が施されていることである。さらに大正初期の洋風病院という建築物としての希少価値もある。我が国に近代的な病院建築が輸入され、それが地方に定着していった貴重な資料でもある。それは建築歴史のみならず、建築計画の分野でも貴重な資料であると思われる。



山辺道文化館窓ガラス

上述したように旧中野病院は建築されてから80年以上が経過しているが、一般に木造建築の耐用年数はメンテナンスが良ければ100年、あるいはそれ以上に耐えられる構造法であることから、本件地区も今後の保存計画によっては十分に文化財としていき続けていくことが可能であると思われる。

ガラスの歪み/ 左側のガラスは当時の物をそのまま使用した物である。対して右側は復旧工事時に新しくはめ込まれた物。往時のガラス生成技術ではかなり歪みが出ていたことが分かり興味深い。
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